Justice再読: 第4章 Hired Help/Markets and Morals(前半) 徴兵制vs志願制

Justice: What's the Right Thing to Do?をメモを取りながら再読中。導入部の第1章功利主義第2章リバタリアニズム第3章の続き。

第4章は、以下の2つの例題について論じることで、功利主義リバタリアニズムに疑問を投げかけている。

  • (前半)徴兵制 vs 志願兵制
  • (後半)代理母出産

今回は前半の話。

「徴兵制 vs 志願兵制」のまとめ

例題

軍隊を構成するにあたり、以下のどちらが優れた制度か?

  • 徴兵制 誰が軍に入るかくじ引きで決める
  • 志願制 本人の意思で希望した者が軍に入る

なお前提条件として、どちらを採用しても、必要な予算は同じで、必要な戦力もそろうものとする。
(この条件は明記されていなかった気もするが、その前提がないと議論は成り立たないだろう)

一般的な常識

ほとんどの人は、志願制が良いと言う。

功利主義者の答え

志願制が良い。希望者が軍に入った方がトータルでハッピーだ。

リバタリアンの答え

志願制が良い。徴兵は、本人の意思と無関係に戦いを強制するものだ。

・・・以上のように、素直に考えれば志願制の勝ち。これに対して、疑問が投げかけられる。

(反論1)志願制はフェアじゃない。

志願制だと、格差社会のものでは、貧乏人ばかりが戦いに行くことになる。なぜなら、給料が魅力的だからだ。自発的な意思といいながら、結局は金に困って志願するのだ
これは、アメリカの現実にも反映されている。実際、エリートたちは軍に入ってない。プリンストン大の卒業者1108人のうち、軍に入ったのはわずか9人。他のエリート校も似たようなもん。下院議員のうち、自分の子供を軍に入れているのはわずか2%。Charles Rangel(朝鮮戦争の英雄、今は下院議員)によれば、政治家が自分達の子供を軍に入れていれば、イラク戦争は防げただろう、という。

(反論2)国を守るのは市民の美徳。金で買うべきじゃない。

例えば、陪審員制を考えてみてくれ。選ばれた人には相当の負担がかかるが、金が欲しい人にやらせようという話にはならないだろう。金を払って他人にやらせていい仕事と、金で買うべきじゃない仕事があるんだ。金で集めた軍隊を認めるのは、言わば傭兵でいいってことで、つまり外国にアウトソースするのもOKということだ。
実際アメリカは傭兵業界の最大手であるBlackwater Worldwideをイラクで雇ったが、Blackwater社の傭兵は市民を誤射で殺害するなどの不祥事を起こしたではないか。

感想

この部分は、一回目に読んだときにも釈然としなかったけど、再読してもやっぱり納得できない。面白いかどうかと言えば、とても面白い内容だと思った。何も考えずに、徴兵制より志願制がいいに決まってると思っていたので、逆の視点があるというだけで新鮮。しかし、反論の内容はいまいちと思う。
まず反論1について。本の中でも少しは触れられていたが、結局は格差社会が問題なわけで、格差そのものは志願制のせいじゃない。徴兵制にしたら、貧乏人は軍で稼ぐことはできなくなり、よけいに格差が開いてしまう。まさに誰得。さらに、政治家が身内を軍に送ってないために判断を誤る(イラク戦争始めちゃった)という弊害について。これも、志願vs徴兵とは直接関係ない。そんなに政治家の従軍率を増やしたかったら、何も徴兵制にする必要はなくて、志願制をベースに工夫してもいいわけで。極端な話、Starship Troopersの世界みたいに、志願して兵役に参加したものだけが参政権を持つようにするとか。
次に反論2について。これも問題のすり替えだと思う。Blackwater社の傭兵が不祥事を起こしたからって、別に「外人の傭兵を雇う」ことが否定されたわけじゃない。そんなこと言ったら、正規軍が不祥事を起こす可能性だって同様にあるわけで。アメリカが徴兵制にしたからといって、沖縄の米軍の不祥事とかなくなるとか思えないんだけど。
例えば、ソフトウェア開発を中国やインドに発注したとして、完成度の低いソフトが納品されたからといって、オフショア開発そのものは否定されないはず(正直、否定したい気持ちになるここともあるのだが)。相手に改善を求めるとか、どうしてもダメなら別の発注先に切り替えるとか、うまく行く方法を考えるのが本筋でしょ(自分で言ってて耳痛いけど)。


これだけ文句言いながらも、やっぱりこの本は面白いと思う。むしろ、いろいろ考えて文句言えるところが面白い。多分、術中にはまってると思うけど続きも読んでみる。