Justice再読: 第3章 Do We Own Ourselves?/ Libertarianism(リバタリアニズム)

Justice: What's the Right Thing to Do?をメモを取りながら再読中。導入部の第1章功利主義第2章の次。

第3章 Do We Own Ourselves?/ Libertarianism まとめ

Libertarianism(リバタリアニズム)の考え方

全ての個人は、所有物をどのように使っても良い、という基本的な権利を持つ。身体や命も当然自分の所有物であるから、どのように使おうが個人の勝手。ただし、他人の権利も同様に尊重する必要があり、所有物を奪ったり、意図に反した行動を強制するのはダメ。

代表的な論者

リバタリアニズムの思想で特徴的なのが、おおまかに以下の2点。

(1) 個人の自由を尊重せよ
他人の迷惑にならない限り、個人の行動を制限するな。自分の道徳観を、他人に強制するな。
禁止すべきでない行動とは、例えば・・・

  • ヘルメットを被らないでバイクに乗るのはOK。自己責任である限り問題ない。
  • 売春OK。道徳的に許せない人もいるだろうが、法で禁じるべきではない。
  • 臓器売買OK。身体は個人の所有物だ。売るのは勝手だ。
  • 自分が死ぬような臓器提供でもいいぞ。たとえば、2個目の腎臓を娘に提供しようとした人が実在したらしい。リバタリアン的にはOK。
  • 独占業務系の免許制度はダメ。理容師免許が無い人に切ってもらいたい人が居たっていいし、医師免許が無い人に手術して欲しい人がいてもいい。個人の勝手。
  • 同性愛、自殺、自殺幇助、カニバリズム、etc.

(2) 富の再配分は認めない
困っている貧乏人がいるからといって、金持ちから強制的に税金を取って、それを貧者に与えるなどという事は権利の侵害だ。強制的に税金を取るということは、所有者の意思を無視している。そもそも、労働で得た金を強制徴収するというのは、労働者を奴隷扱いしているということだ。
ただし、権利の侵害を防ぐための最低限の施策のために税金を集めるのはOKらしい。窃盗の防止とか、治安維持とか。また、人生スタート時点での格差を是正するのはアリらしい(実施する方法があるかはともかく)。

(2)への反論と回答

  • 反論1:税金を払いたくなければ、働く量を減らせばいいだろ。
  • リバタリアン:どのくらい働くのかは自由だ。なぜ強制される必要がある。
  • 反論2:貧乏人の方が、より切実に金を必要としてるんだぞ。
  • リバタリアン:例えば、腎臓移植を待っている人なんか、ものすごく切実に腎臓を必要としてるぞ。だからといって、臓器提供を強制されていいのか?
  • 反論3:金持ちは、一人で稼いだわけじゃない。関係者みんなの力だ。
  • リバタリアン:関係者には報酬を払えばいい。無関係な貧者に金を渡す必要はない。
  • 反論4:選挙制度を通じて納税に賛成しているだろ。
  • リバタリアン:投票した議員が落選したら払わなくていいのか?
  • 反論5:金を稼ぐ才能を持って生まれたやつはラッキーだ。不公平だ。
  • リバタリアン:不公平かもしれないが、だからどうしろと。才能まで含めて個人の所有物だ。でなければ誰のものだ。

感想

「(1) 個人の自由を尊重せよ」の考え方は大好きだ。「他人の迷惑にならない限り」というのはあいまいだけど、あいまいさのない理論なんてこの本には載ってないので仕方ない。
たしかに、ここであがっている例は、臓器売買などのキツいやつが多い。しかし、世の中のほとんどの場合において、価値観を押し付けずに個人の自由に任せるべきである状況が多い。世の中には自分が嫌いなものを他人にまで禁止しようとするお節介バカが多いから。相撲中継を止めさせた連中とか。そもそも、リバタリアニズムによれば賭博も問題ないだろう。
臓器提供の例にしても、他人が禁止していい問題じゃない。死ぬのを承知で2個目の腎臓を娘に提供しようとした男の話、感動すら覚える。それを禁止する権利があるんだろうか。実際禁止されて、移植できなかったらしいけど。

一方、「(2) 富の再配分は認めない」のほうは、一理あると思うけど受け入れにくい。正義がどうというより、それじゃうまく回らないと思うので。本当にリバタリアンは再配分絶対禁止なのか疑問に思い、ちょっとWikipediaカンニングしてみた。すると・・・

ミルトン・フリードマンが提唱した負の所得税が有名である。

左派リバタリアニズムは、....
また、ベーシック・インカム基本所得)の主張も特徴的で、ヨーロッパの左派リバタリアン政党(1980年代のドイツ緑の党に典型的にみられる)がしばしばこれを掲げる。

負の所得税とか、ベーシックインカムとか。禁止どころか、再配分の理想形じゃないか。流派があるとはいえ、本に載ってるリバタリアンと違いすぎるぞ。著者のサンデル教授、リバタリアニズムが嫌いなんだろうけど、この情報を隠すのはちょっとフェアじゃなさすぎる。
とはいっても、偏ってない本なんか存在しないし、面白いからいいか。